【1937年】『人情紙風船』感想ネタバレあり。人情どころじゃない衝撃の結末。

山中貞雄の遺作。あらすじと概要。

撮影当時は1937年と言う日本が大変な時期まっただ中だと言うのに、山中貞雄監督は27歳と言う若さでこの映画の総指揮をつとめました。
今観てみると大変映像も荒く、見づらい部分もありますが、27才の若さで、『前進座』の俳優をキャスティングし、日本映画しに大きな爪痕を残したこの『人情紙風船』を知らない方も多いと思います。

この作品を遺作として、山中貞雄監督は手記に書き残しておりました文面が、「紙風船が遺作となるのはちと寂しい…」と言いながら28才の時に湖南省で病死なさっています。
長屋の人情物語と思いきや、そうではなく貧困で報われない人々の暮らしぶりが描かれてあり。ご本人の先行きの暗さを映画に反映させているようにも思えました。

概要:江戸時代にありがちな長屋に住む老人、髪結い、浪人、大家さんと当時の人々の生活感から、他人のことにも大きく干渉し、そしてその長屋の住人たちの底抜けの明るさと暗さを表現し、まるでゴーリキーの『どん底』を観てるようでした。
黒澤明監督の『どん底』よりもスケール感は小さいのですが、山中監督の細部にいたる演出が冴え渡っております。当時27歳だったとは到底思えません。監督ご自身の未来の暗さを反映させたテンポの良い時代劇です。

 

映画のネタバレと感想。

深川の貧困長屋で首を括って自死した老人を、おなじ長屋の住民が見つける。

役人が調べに来ているシーンから物語は始まるのだが、長屋に住む多くの住人が詮索しながら故人にに対して物議を醸す。しかし、通夜も葬式も祝事のように酒を飲んで無責任にうさを晴らすし、髪結いの新三はうまい落語家のような言い回しで強引に大家に酒代を負担させたり、深川の親分と揉め事を起こしたり、人騒がせな登場人物である。

一方、浪人の又十郎は侍であることに固執して、毛利様への士官を諦めなかった。それを客観的に観ていた妻は、内心穏やかでないものの、紙風船の内職を続けて夫を支えている。又十郎が口癖のように、自分の父親が毛利様をあそこまでの地位にしてやったのだからと言い、又十郎の父親が書いた手紙を毛利様に読んでもらおうとするが、お屋敷に出向いても邪険に扱われるばかりであり、自分の知恵のなさを不甲斐なく思っている。

縁日があったある日、質屋の忠七とただならぬ仲であるお駒が大雨の中、傘を取りに行った忠七を待っているが、口のうまい新三に誘拐され、長屋の隣に住む又十郎にかくまってもらっていた。お駒は毛利の口利きで縁談を控えていた。

翌朝、お駒は開放されるのだが、その一件を知った強欲な長屋の大家が身代金として50両で毛利方と話をつけて帰ってきた。新三は憂さ晴らしのための誘拐だったため、金子を貰うのを躊躇ったが、50両の半分を手にし、お駒を匿ってくれた又十郎にも25両の中からいくらか手渡す。

向島の実家に帰っていた又十郎の妻は、長屋に帰宅後、その一件を知る。
自分の夫の不甲斐なさと、誘拐などの悪事に協力した事など日頃の辛抱に耐えきれなくなり酒に酔った又十郎をあやめ、心中をする。

出典

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ストーリーやテーマについて

  • 深川の貧乏長屋が舞台になっており、主役が誰だかわからないような群像劇です。
  • 『人情紙風船』と言うタイトルがついていますが、良い人ばかりが出てくるわけではない。
  • 男たちは常に「酒」を飲んで憂さ晴らしをしたがっているのは現代の日本人を彷彿とさせる部分であり、「酒」は貧乏でも金持ちでも飲みたがる。
  • ウダツの上がらない夫は、女房にいつまでも辛抱させてはいけない。
  • この時代、「やられたらやり返す」は通用しない。
  • 貧困層を救おうとしないのは今も昔も同じなのか、と思う。日本の体質はこの頃から変わっていない。これからも変わらないような気がする。
  • 裕福な侍と底辺長屋の住人たちの相反する生活様式はある意味『パラサイト』のようです。

    この映画のオススメ度

    ★★★★ 星4つです。
    86分と言う短い時間の中ですが、じっくり観ると、とても考えさせられる事が詰め込まれています。
    監督の山中貞雄が27歳で出征することの不安と情緒不安定な部分が詰まった作品と言えるでしょう。
    決して幸せではなさそうな登場人物が幸せなラストを迎えるわけではなく、むしろ現代日本に置き換えても不自然ではない作りになっています。

    映像が荒かったり、セリフが聞き取りにくい部分もありますが、大切なセリフはきちんと聞き取れます。
    ほぼ主役の新三と又十郎は正反対の人間に見えますが、結局は同じ類に属するように思えます。

    ウダツが上がらないなら知恵を絞れ!知恵がないなら労働しろ!と言いたいところです。私としては。

    隠れ主役は又十郎の妻オタキさんです。

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人の心情を深く理解すれば、自分の身の振り方も変わってくる、と言うような爽快感になりました。明朗快活な物語ではありませんが、反芻するごとに上記のような気持ちになってきます。

明るい映画を見たからと言って明るくなれるわけではありません。
一つの作品にじっくり寄り添ってみれば、新しいひらめきと言うものも降りてきます。深川長屋の登場人物と、作り手の山中貞雄監督の心情を感じながら鑑賞しました。
 

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